珈琲の思い出1

珈琲と聞いて思い出す場面を徒らにつらつらと綴っていこうと思う。

 

大学3年生か4年生の時。

当時私は国分寺に住んでいた。駅からは徒歩で40分くらい離れていたが、今思い出すと実に過ごしやすい借家だった。アパートの裏は植林地になっていて閑静かつ緑が豊富だったし、近所に寛げる小さな図書館があった。町は街路樹も多く、思い出の中で散歩をすると、いつも小さく輝く木漏れ日を潜っている。

惜しくも昨年閉店した阿佐ヶ谷「珈琲雨水」の店主(K)とは大学時代からの親友で、この頃はKからの紹介でボーリング場内にある喫茶店でアルバイトを一緒にしていた。青地に黄色の鍵マークがお馴染みのタイプの純喫茶だった。

この店には色々と物言いたいことがあるのだが、とにかく、貧乏大学生のアルバイト先としてはまさにオアシスであった。

ボーリング場自体は2階にあり、1階に中華料理店と喫茶店とビリヤード場があり、喫茶店でビリヤード台の貸し出しを受け付けしていた。

珈琲はボタンを押すと「ゴゴゴゴゴ…!!」と小さな身を精一杯震わせるタイプのマシンから絞り出され、バイト中は飲み放題。まかないは量もたっぷりで美味。まさに当時の生命線であった。ここでカフェイン中毒になったのではないかと思われる。

時期がうまく思い出せないのだが(こういうことをよく覚えているのはKの方なのだが)、ある日Kが「美味いコーヒーを手に入れた!飲みに来い」と自宅に誘ってくれたことがある。

当時Kは大学の正門からすぐ近くに借家しており、まぁ自分もどっこいどっこいの貧乏借家であった。(このKの借家では涙堪えきれぬバリカン断髪式が催され、私がKの頭をバリカンで刈った際に流血させたという小事件が後に起こるのだが、ここでは関係のない話である)

まぁ血気盛んな大学時代の話で色々と思い出はあるのだが、「大学時代」、「珈琲」と聞くと思い出すのはアルバイトと、この特に何も事件のない穏やかな一件である。

Kは当時から自宅でペーパードリップを行なっていた。私は珈琲に関しては何も知らない、ただアルバイト先にあるマシンのボタンを押すと唸りをあげて絞り出される苦い液体くらいの印象だった。

季節はいつだったんだろう。でもやはり晴れていた。部屋に通され得意満面でドリップするKとしょうもない大学生2人の放つ独特の気怠さが漂う部屋の雰囲気。

陽当たりが悪かったな。窓が東向きだったんだな。

そんな中で出された珈琲を2人して啜る。

K「どうだ」

私「うん、美味いような気がする。よくわからんが、これは美味い。」

K「いや、別に普通の安物だけどね」

私「そういうのやめろよ!恥ずかしいだろ!」

K「嘘だよ笑」

どうしてもこの時の珈琲の味の細部の印象がない。けれど、大学生活の思い出の中でもこの場面は良い記憶として今も残っている。きっと、Kは自分が美味いと思った珈琲を私に飲ませたいと出してくれたのであり、その和やかな心尽くしがストンと胸の空白に収まる心地の良いものだったのだと思う。今思えば珈琲店における心理構図のままである。この時は2人とも珈琲に携わるとは夢にも思っていなかったが。

尚、Kは最近、名前の後に「SHB」を付け標高の高さを表しているようである。元気なようだ。

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